仙台高等裁判所 昭和24年(を)173号 判決 1950年3月07日
被告人
大久保金太郎
外二名
主文
原判決中被告人等に関する部分を破棄する。
本件を青森地方裁判所八戸支部に差し戻す。
理由
被告人大久保金太郎の弁護人の控訴趣意第二点、被告人水梨茂の弁護人の控訴趣意第一点、被告人宮村昭博の弁護人の控訴趣意第二点について。
(前略)検事の小川夏江に対する供述録取書の証拠能力につき検討するに、記録によれば原審第二回公判期日において検察官は右供述録取書の取調を請求したのに対し、被告人水梨茂の弁護人杉森秀雄、原審相被告人夏川戸武男の弁護人三浦常太郎はこれを証拠とすることに同意したが、被告人大久保金太郎の弁護人川村彌水吉、被告人宮村昭博の弁護人相内禎介はこれを証拠とすることに同意しなかつた。しかし裁判官は右供述録取書につき証拠調を行い、さらに検察官及び弁護人川村彌水吉、三浦常太郎はそれぞれ被害者小川夏江を証人として取調の請求をし、裁判官はこれを尋問する旨の決定をした。よつて前記供述録取書に記載された小川夏江の住居に宛て召喚状を発したが、該当者が見当らないという理由で送達不能となつたために(記録一八〇丁送達報告書参照)第三回公判期日において検察官及び川村弁護人は証人小川夏江の請求を抛棄する旨述べ、三浦弁護人はこれが再呼出を求めたが、証人の住所を明らかにする何等の申出をしなかつたので裁判官はこれが再呼出をしない旨決定したのである。従つて右のような経過のもとにおいて小川夏江は所在不明のため裁判所において供述することができない場合に該当するものと認むべきであるから刑事訴訟法第三百二十一條第一項第二号により同人の検事に対する供述調書は証拠能力を有するものである。さればこれを証拠能力がないとする所論は理由がない。
(註 本件は理由齟齬により破棄差戻)